1. これは何の話？
ラスベガスで開催中のAWS re:Invent 2025にて、Amazonが自社開発のAIモデル「Nova」の次世代版を一挙に公開しました。 これまでのAmazonは、AnthropicのClaudeなど他社モデルのホスティング（Bedrock）に注力していましたが、今回の「Nova 2」シリーズの投入により、モデル開発競争の最前線に再び名乗りを上げました。 ラインナップは用途別に明確に分かれており、特に注目すべきは、テキスト・画像・動画・音声を一度に理解・生成できるユニファイドモデル「Nova 2 Omni」と、人間のような自然な会話を実現する音声モデル「Nova 2 Sonic」です。
2. 何がわかったか
Nova 2シリーズの各モデルの特徴は以下の通りです。
- Nova 2 Lite: 圧倒的なコストパフォーマンスと速度を誇り、カスタマーサポートや文書処理などの日常業務向け。
- Nova 2 Pro: 「推論（Reasoning）」能力を強化したモデル。複雑な指示を理解し、自律的にツールを使ってタスクをこなす「エージェント」としての利用を想定しています。
- Nova 2 Sonic: 音声入力から音声出力までの遅延を極限までなくしたモデル。翻訳機や対話型アシスタントに革命をもたらします。
- Nova 2 Omni: あらゆるデータ形式（マルチモーダル）に対応し、例えば「動画を見ながらその内容について音声で議論する」といった高度な処理が可能です。
3. 他とどう違うのか
OpenAIのGPT-4oやGoogleのGemini 1.5 Proに対するAmazonの回答と言えますが、最大の違いは「AWSエコシステムとの統合」です。 Nova 2は、AWS上のデータベースやAPIと安全に接続できるように設計されており、企業が自社データを外部に出さずに、セキュアな環境で最新AIを活用できる点が強みです。 また、「Amazon Nova Forge」というサービスを使えば、企業独自のデータでNovaモデルを追加学習（ファインチューニング）させることも容易になりました。
4. なぜこれが重要か
AWSユーザーにとっては、追加契約なしでBedrockからすぐに使える高性能モデルの選択肢が増えたことを意味します。 特に、コストに敏感なエンタープライズ企業にとって、性能と価格のバランスが取れたNova 2 Liteの存在は、生成AIの全社導入を後押しするでしょう。 また、音声特化のSonicモデルは、コールセンターの完全自動化や、リアルタイム通訳デバイスの開発を加速させる可能性があります。
5. 未来の展開・戦略性
Amazonは「モデルのデパート（Bedrock）」戦略を維持しつつ、自社モデル（Nova）をその中核に据えることで、利益率の改善と技術的な自立を図っています。 今後は、Alexaなどのコンシューマー製品にもNova 2の技術が転用され、Amazon全体のAI能力が底上げされていくでしょう。
6. どう考え、どう動くか
AWSを利用している開発者は、現在使っているモデル（ClaudeやLlama）とNova 2を比較検討すべきタイミングです。
指針：
- コスト削減が課題のプロジェクトでは、Nova 2 Liteへの置き換えをテストする。
- 音声対話アプリを開発している場合は、Nova 2 Sonicの低遅延性能を検証する。
- 複雑なワークフローを自動化したい場合は、Nova 2 Proのエージェント性能を評価する。
次の一歩： ・今日やること：AWSコンソールでAmazon Bedrockを開き、Nova 2モデルへのアクセス権を申請する。 ・今週やること：既存のRAG（検索拡張生成）システムのバックエンドをNova 2 Proに切り替えて、回答精度とレスポンス速度の変化を計測する。
7. 限界と未確定
- 日本語性能: 多言語対応は謳われていますが、日本語のニュアンス理解や生成能力が、競合のGPT-4oやClaude 3.5に比べてどの程度かは、実機での検証が必要です。
8. 用語ミニ解説
- 基盤モデル (Foundation Model): 大量のデータで事前学習され、様々なタスクに適応できるAIモデルの総称。
- エージェント (Agent): 単に質問に答えるだけでなく、自律的に計画を立て、ツールを使って行動（Web検索やAPI実行など）できるAIシステム。
9. 出典と日付
[1] Amazon Press Release (2025-12-02): https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/12/amazon-nova-2-foundation-models/