1. これは何の話?
AnthropicのエンジニアでClaude Codeの創設者でもあるBoris Cherny氏が、「初期のClaude CodeではRAG+ローカルベクトルDBを使っていたが、最終的にAgentic Searchの方が圧倒的に良いと分かった」と発言し、議論を呼んでいます。
AI開発において「RAG(検索強化生成)」は長らく王道のソリューションとされてきました。しかし、最先端のコーディングエージェントであるClaude Codeがそれをあえて採用せず、「Agentic Search」という別のアプローチを選んだ背景には、エンジニアが知っておくべき重要な洞察が含まれています。
2. 何がわかったか

Boris氏の発言とそれに基づく議論から、以下のポイントが明らかになりました。
王道RAGの限界 一般的にRAGと言えば、事前に文書をEmbedding(ベクトル化)してDBに保存し、質問に関連する箇所をセマンティック検索する手法を指します。 しかし、コードベースのような構造化されたデータにおいて、この手法は必ずしも最適解ではありません。「ベクトル検索で上位に来たからといって、論理的に関連があるとは限らない」ためです。
Agentic Searchの強み Claude Codeが採用したAgentic Searchとは、AIが能動的に探索を行う仕組みです。
- 事前のインデックス構築(Embedding)を行わない。
- AI自身が
findやgrepといったコマンドを使い、必要なファイルを探索する。 - ファイル構造やディレクトリ名といった「コンテキスト」を維持しながら、探索範囲を自律的に広げたり絞ったりする。
単に検索して終わりではなく、「探して、読んで、判断して、また探す」という試行錯誤のプロセス自体をAIに実行させる点が画期的です。
3. 他とどう違うのか

従来のRAGが「1サイクル完結型(検索→回答)」であるのに対し、Agentic Searchは「多段階探索型」です。
RAGは、巨大な図書館で司書(検索エンジン)におすすめの本を出してもらうようなものです。司書の検索精度が全てであり、的外れな本を渡されたらそこで終了してしまいます。 一方Agentic Searchは、AI自身が本棚の間を歩き回り、目次をパラパラとめくり、「これじゃないな」と棚を変えながら、目的の記述を見つけ出すプロセスに似ています。
特にプログラミングのような「論理的な繋がり」が重要な領域では、キーワードの類似度で探すよりも、ディレクトリ構造や依存関係を辿って探す方が理にかなっています。
4. なぜこれが重要か
「RAGか、非RAGか」という二元論を超え、「AIにどうやって情報を渡すか」のパラダイムシフトが起きているからです。
ここ数年、エンジニアは「Embeddingの精度向上」や「ベクトルDBの速度改善」といったAI側のチューニングに時間を費やしてきました。 しかしClaude Codeの事例は、「人間がAIのために環境を整備すること」の方が重要である可能性を示唆しています。
つまり、フォルダ構成をきれいに保つ、わかりやすいファイル名を付ける、不要なファイルを削除する、といった「当たり前の整理整頓」こそが、Agentic Searchの探索効率を最大化し、AIを賢くするための最短ルートだということです。
5. 未来の展開・戦略性
「AIに何をやらせるか」よりも「AIが動きやすい環境をどう作るか」へ、関心の中心が移っていくでしょう。
今後は、AIエージェントにとって読みやすいドキュメント構成(例:CLAUDE.mdのようなガイドファイルの設置)や、探索しやすいAPI設計といった、いわば「AIフレンドリーなインフラ整備」がエンジニアの重要なスキルセットになると予想されます。
また、RAGが完全に不要になるわけではなく、雑多な非構造化データ(社内Wikiや大量のPDF)には依然としてRAGが有効であり、適材適所の使い分けが進むはずです。
6. どう考え、どう動くか
開発者であれば、まずは自分のプロジェクトの「整理整頓」から始めるべきです。
- ディレクトリ構造を見直す: 関連するファイルが近くにあるか、階層が深すぎないか。
- 命名規則を統一する: AIがファイル名だけで中身を推測できるような、記述的な名前になっているか。
- ゴミを掃除する: 使われていない古いコードや、誤解を招く古いドキュメントが残っていないか。
「汚い部屋ではAIも仕事ができない」というのは、Agentic Searchにおいては比喩ではなく現実です。
高性能なモデルや複雑なRAGシステムを導入する前に、まずはls -Rした結果が人間にとって読みやすいかどうかを確認してみてください。それがそのまま、AIにとっての読みやすさに直結します。
7. 限界と未確定
- コストと時間: Agentic SearchはAIが何度も思考し、コマンドを実行するため、一発回答のRAGに比べてトークン消費量が多く、回答までの待機時間も長くなる傾向があります。
- 適用範囲: コードベースのような「論理的構造」があるデータには強いですが、文脈の繋がりが薄い「断片的な知識の集合体」に対しては、依然としてベクトル検索の方が効率的な場合があります。
8. 用語ミニ解説
Agentic Search AI自身がエージェント(主体)となり、検索クエリの生成、ツールの実行(grep等)、結果の評価、再検索といった一連のプロセスを自律的に行う検索手法。
RAG(Retrieval-Augmented Generation) 外部データを検索し、その結果をAIへのプロンプトに含めることで、回答の精度を向上させる技術。一般的にはベクトル検索を用いた手法を指すことが多い。
Embedding(エンベディング) 文章や画像を数値の列(ベクトル)に変換すること。これにより、コンピュータが言葉の「意味の近さ」を計算できるようになる。
9. 出典と日付
Zenn: なぜ、Claude Codeは、RAGを捨ててAgentic Searchを選んだのか? (参照日:2026-02-10):https://zenn.dev/karamage/articles/2514cf04e0d1ac






