1. これは何の話?

中国のロボットスタートアップEngineAIが、世界ロボット大会において、非常にアグレッシブなコンセプトの人型ロボット「T800」を披露しました。 名前からして映画『ターミネーター』を意識していることは明白ですが、そのスペックも伊達ではありません。 身長1.85メートル、体重85キログラムという堂々たる体躯を持ち、ロボット同士の「格闘(ボクシング)」や「武術」のデモンストレーションを行うことを想定して設計されています。 単なる見世物ではなく、過酷な動きに耐えうる頑丈な設計と、それを制御する高度なAI技術をアピールする狙いがあります。

2. 何がわかったか

T800の技術的なハイライトは以下の通りです。

  1. 圧倒的なパワー: 関節の最大トルクは450Nmに達し、爆発的なジャンプや素早いパンチを繰り出すことが可能です。
  2. 最新の頭脳: 計算ユニットにはNVIDIAのロボット向け最新チップ「Jetson Thor」を採用し、視覚・触覚・力覚センサーからの情報をリアルタイムで統合処理します。
  3. 全固体電池: 安全性とエネルギー密度に優れる「全固体リチウム電池」を搭載し、2〜4時間の連続稼働を実現しています。これは従来のリチウムイオン電池よりも衝撃に強く、戦闘デモ機として理にかなった選択です。

3. 他とどう違うのか

TeslaのOptimusやFigure 02が「工場での労働」や「家庭での手伝い」といった平和的な用途を前面に出しているのに対し、EngineAIは「コンバット(戦闘)」という過激なキーワードで性能を誇示しています。 これは、繊細な作業よりも、まずは「壊れずに激しく動ける」というハードウェアの堅牢性と運動制御能力を証明しようとする、中国メーカーらしい差別化戦略と言えます。 また、最初からエンターテインメント(ロボット格闘技)を市場の一つとして捉えている点もユニークです。

4. なぜこれが重要か

「戦えるロボット」が作れるということは、裏を返せば「災害現場や危険地帯でも活動できるロボット」が作れるということです。 衝撃に強いボディ、転んでも起き上がる制御、予測不能な相手(敵)に対応するAIは、そのままレスキューや警備といったタフな現場での実用性に直結します。 中国のロボット産業が、模倣の段階を超えて、独自のコンセプトと高い技術力で世界市場に挑み始めている象徴的な事例です。

5. 未来の展開・戦略性

EngineAIは、このT800をベースに、産業用モデルやオープンソース版のエコシステムモデルを展開する計画です。 価格も基本構成で25,000ドル(約370万円)からと、人型ロボットとしては破格の安さを提示しており、研究機関やホビーユーザーを一気に取り込む可能性があります。 12月24日にはロボットボクシング大会も予定されており、パフォーマンスを通じて世界的な知名度を獲得しようとしています。

6. どう考え、どう動くか

日本のロボット関係者は、中国勢の「スピード感」と「見せ方の巧みさ」に危機感を持つべきです。

指針:

  • 中国製ロボットのスペック(特にアクチュエータ出力とバッテリー技術)をベンチマークし、自社製品との差分を冷静に分析する。
  • 「格闘」というデモが、技術力の証明としてどれほど効果的か(あるいは倫理的にリスクがあるか)をマーケティング視点で評価する。
  • 25,000ドルという価格帯が実現した場合、サービスロボット市場にどのような価格破壊が起きるかシミュレーションする。

次の一歩: ・今日やること:YouTubeでT800のデモ動画を検索し、実際の動きの滑らかさと衝撃への耐性を確認する。 ・今週やること:全固体電池のロボットへの採用事例を調べ、従来のリチウムイオン電池に対するメリット・デメリットを整理する。

7. 限界と未確定

  • 実用性: 格闘デモは派手ですが、実際に工場で部品を組み立てたり、家事をしたりするような「繊細な作業」ができるかは未知数です。
  • 安全性: 強力なパワーを持つロボットが暴走した場合のリスクは大きく、人間と共存する環境での安全性確保には課題が残ります。

8. 用語ミニ解説

  • 全固体電池: 電解質に液体ではなく固体を使う電池。燃えにくく安全性が高い上、エネルギー密度も高い次世代バッテリー。
  • Jetson Thor: NVIDIAが人型ロボットのために開発した最新のAIコンピューター。生成AIモデルをローカルで高速に動かすことができる。

9. 出典と日付

[1] Interesting Engineering (2025-12-03): https://interestingengineering.com/ai-robotics/china-t800-combat-humanoid-robot