1. これは何の話?

日本の事務機器メーカー大手リコーが、Googleが公開した最新のオープンモデル「Gemma 3 27B」をベースに、日本語能力を大幅に強化した独自のLLM(大規模言語モデル)を開発しました。 このモデルの最大の特徴は、AWSやAzureといったパブリッククラウド上ではなく、顧客企業の社内サーバー(オンプレミス)で動かすことを前提に作られている点です。 「情報は社外に出したくないが、高性能なAIは使いたい」という、セキュリティに厳しい日本企業のニーズに正面から応える製品です。

2. 何がわかったか

リコーの発表によると、このモデルは「独自のモデルマージ技術」「Chat Vector」、そして「約1.5万件の指示追従データ」を用いて開発されました。 日本語タスクにおけるベンチマークでは、ELYZA-tasks-100やJapanese MT-Benchで高いスコアを示しており、日本語の読解力や生成能力が向上していることが示唆されます。 27B(270億パラメータ)というサイズは、性能と動作コストのバランスが良いとされ、リコーは「PCサーバ等で構築でき、低コストで導入可能」と説明しています。 オンプレミスでLLMを運用できれば、RAG(検索拡張生成)と組み合わせて社内文書を参照した回答システムを構築しやすくなるでしょう。

3. 他とどう違うのか

OpenAIのGPT-4などはAPI経由で利用する必要があり、データがクラウドに送られる懸念がどうしても残ります。 また、Llamaなどの海外製オープンモデルは日本語が少し不自然なことがあります。 リコーのモデルは、「完全ローカル動作」による安心感と、「日本企業による日本語特化チューニング」による実用性の高さを両立させている点が強みです。 ハードウェアの提供から保守までワンストップでサポートできるのも、メーカーであるリコーならではの差別化ポイントです。

4. なぜこれが重要か

製造業の設計図面、金融機関の顧客リスト、自治体の住民情報など、クラウドに上げることを躊躇するデータは山ほどあります。 これまでは「セキュリティか、利便性か」の二者択一でしたが、高性能なオンプレミス向けモデルの登場により、「セキュアな環境で最新AIを使う」という第三の選択肢が現実的になりました。 「コンプライアンスの壁」でAI導入が止まっていた多くの日本企業にとって、ブレイクスルーとなる可能性があります。

5. 未来の展開・戦略性

リコーは単にモデルを売るだけでなく、これを自社の複合機やドキュメント管理システムと連携させていくでしょう。 「コピー機が勝手に書類を読んで、要約して整理してくれる」未来が見えます。 また、このような「各国の事情に合わせたローカルLLM」の開発は世界的なトレンドとなり、巨大な汎用モデルと、地域特化型モデルの棲み分けが進むと考えられます。

6. どう考え、どう動くか

社内規定でChatGPT禁止になっている企業こそ、このモデルの導入ターゲットです。

  • 自社のセキュリティポリシーを確認し、「外部クラウド利用禁止」のデータがどの程度あるかを棚卸しする。
  • オンプレミスでLLMを運用する場合のハードウェアコスト(GPUサーバー代、電気代)と、API利用料を比較試算する。リコーのようなベンダーからのリース提案も検討に入れる。
  • 「日本語特化」の実力を測るため、自社特有の言い回しや業界用語を含むテストプロンプトを用意しておく。
  • 次の一歩:
    • 今日やること:リコーのプレスリリースを読み、提供開始時期やトライアルの有無を確認する。
    • 今週やること:情シス部門と「オンプレミス回帰」の可能性について雑談してみる。

7. 限界と未確定

  • ハードウェア要件: 「PCサーバ等で構築可能」とされていますが、具体的なGPU型番や推奨スペックは公表されていません。27Bクラスのモデルを快適に動かすには、一般的にはハイエンドGPUが想定されます。
  • 性能差: 日本語ベンチマークでは高スコアを示していますが、汎用的な知能レベルではGPT-4などの超巨大モデルには及びません。複雑な推論タスクでは力不足を感じる可能性があります。
  • 学習詳細: 「独自のモデルマージ」「Chat Vector」の具体的な手法や、学習に使用したデータの詳細は公開されていません。

8. 用語ミニ解説

  • On-Premise (オンプレミス) 自社の建物内にサーバーや機材を設置して運用する形態。クラウド(自社外)の対義語。通称「オンプレ」。
  • Gemma (ジェマ) Googleが開発・公開しているオープンモデルシリーズ。Geminiと同じ技術で作られているが、ダウンロードして自由に使える。

9. 出典と日付

リコー ニュースリリース(公開日:2025-12-08):https://jp.ricoh.com/release/2025/1208_1