エッジAIの構成図

1. これは何の話?

「GPUサーバーを使わずに、手元の小さなラズパイでLLMを動かしたい」というエッジAI開発者の夢現実に迫る、包括的なベンチマーク研究です。 研究チームは、Raspberry Pi 4、Raspberry Pi 5、Orange Pi 5 Proという人気のシングルボードコンピュータ(SBC)上で、25種類の量子化されたオープンソースLLMを動作させ、その推論性能を検証しました。 特に、手軽さで人気の「Ollama」と、高速性で注目の「Llamafile」という2つの実行環境(ランタイム)を比較し、どちらが低スペックなデバイスに適しているかを明らかにしています。

2. 何がわかったか

  • Llamafileの圧勝:Mozilla発のランタイム「Llamafile」を使用した場合、「Ollama」と比較して最大で4倍高いスループット(生成速度)を記録しました。
  • 電力効率も優秀:さらにLlamafileは、消費電力においてもOllamaより30〜40%低いという結果が出ており、バッテリー駆動も想定されるエッジデバイスとの相性の良さが示されました。
  • 実用ラインは1.5B:SBCの限られたメモリと計算力では、15億パラメータ(1.5B)クラスのモデルまでであれば実用的な速度で動作することが確認されました。

3. 他とどう違うのか

これまでの「やってみた」系の記事と異なり、複数のハードウェア×複数のモデル×複数のランタイムを組み合わせて体系的にデータを取っている点が決定的に違います。 単に「動いた」だけでなく、推論速度、メモリ消費、消費電力という3つの軸でトレードオフを可視化しており、これからエッジAIシステムを組む人にとっての「選定ガイド」として機能します。

4. なぜこれが重要か

「LLM=巨大なGPUが必要」という常識を崩し、数千円〜1万円台のデバイスでもプライバシーを保護しながらローカルLLMが動かせることを証明したからです。 これは、スマートホーム機器や子供向けのおもちゃ、インターネット接続のない僻地でのAI活用など、クラウドLLMではコストや通信面で実現できなかったユースケースを一気に現実的なものにします。

5. 未来の展開・戦略性

今後は、SBC(シングルボードコンピュータ)側も、汎用CPUだけでなくNPU(AI特化チップ)の搭載が標準化していくでしょう(Orange Pi 5 Proはすでに強力なNPUを持っています)。 ソフトウェア側では、Llamafileのような「ハードウェアの限界を最大限に引き出す最適化」が進み、現在のスマホアプリのように、誰もが意識せずにローカルLLMを自分のガジェット内で走らせる時代が近づいています。

6. どう考え、どう動くか

もしあなたが「ちょっとしたAIボット」を作ろうとしているなら、安易にクラウドAPIを使う前に、手元のラズパイで動かせないか検討すべき時が来ました。

指針:

  • ランタイムを見直す:現在ラズパイでOllamaを使っているなら、すぐにLlamafileへの切り替えをテストし、速度差を体感してください。
  • モデルサイズを見極める:7Bや8Bモデルを無理に動かすより、Qwen-1.5BやLlama-3.2-1Bなどの軽量モデルを選び、サクサク動かすUXを優先してください。
  • ハードウェアを選定する:新規購入なら、NPU性能が高いRockchip系(Orange Pi等)か、コミュニティ情報の多いRaspberry Pi 5かを、用途(AI重視か、開発しやすさ重視か)で使い分けてください。

次の一歩: ・今日やること:手持ちのSBCにLlamafileをインストールし、1Bクラスのモデルを走らせてトークン生成速度を計測する。 ・今週やること:OllamaとLlamafileのCPU使用率と発熱の違いを比較し、常時稼働に耐えられる構成かチェックする。

7. 限界と未確定

  • メモリの壁:どんなにランタイムが高速化しても、SBCの搭載メモリ(4GB〜8GB)という物理的な上限は超えられません。長文脈(Long Context)を扱うとすぐにメモリエラーになる可能性があります。
  • NPU活用の難易度:Orange PiなどのNPUは強力ですが、ソフトウェア(ドライバやSDK)の対応が複雑で、初心者には導入のハードルが高い点が課題として残っています。
  • 量子化の品質低下:SBCで動かすために極端な量子化(4bit未満など)を行うと、モデルの回答精度が著しく落ちる可能性があり、その境界線の見極めが必要です。

8. 用語ミニ解説

SBC (Single-board Computer) 必要な部品(CPU、メモリ、入出力端子など)が1枚の基板に収まった超小型コンピュータ。Raspberry Piが代表格。安価で消費電力が低く、IoT機器によく使われます。

Llamafile 1つのファイルでLLMを配布・実行できる仕組み。面倒なインストール不要で、「ダウンロードしてダブルクリック」だけで動く手軽さと、高速な動作が特徴です。

9. 出典と日付

ArXiv(公開日:2025-11-12):https://arxiv.org/abs/2511.07425