これは何の話?
AIの利用実態を100兆トークン規模で分析した、OpenRouterによる「State of AI 2025」レポートの解説です。
「みんな実際には何にAIを使っているのか?」「オープンソースは本当に流行っているのか?」といった疑問に対し、推測ではなく実データで答えています。2024年末の「o1」リリースを転換点として、AIの利用形態が単なるテキスト生成から「自律的な推理(Agentic Inference)」へと劇的にシフトしたこと、そして中国製オープンソースモデルが驚異的なシェアを獲得している現状が明らかになりました。

何がわかったか
特に衝撃的な事実は以下の3点です。
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オープンソース(OSS)モデルの躍進: OSSモデルの利用シェアは全体の約3分の1(33%)に達しています。商用モデル(Closed)が依然として過半数を占めるものの、コストとカスタマイズ性を理由にOSSを選ぶ動きが定着しています。
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「チャイナ・ショック」: 2024年末にはわずか1.2%だった中国製OSSモデル(Qwen、DeepSeek等)のシェアが、2025年後半には一時30%近くまで急騰しました。安価で高性能なこれらのモデルが、世界のAI利用地図を塗り替えています。
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「シンデレラ効果」による定着: 初期にAIを使い始めたユーザー層(コホート)は、後発のユーザーよりも圧倒的に長く、深くAIを使い続けていることがわかりました。これをレポートでは「シンデレラ・ガラスの靴(Glass Slipper)効果」と呼んでいます。

他とどう違うのか
従来のレポートが「性能(ベンチマーク)」や「企業価値」に焦点を当てがちだったのに対し、本レポートは徹底して「実際の使われ方(Usage)」を分析している点が異なります。
例えば、カテゴリー分析では「生産性向上(Productivity)」だけでなく、「クリエイティブなロールプレイ(Roleplay)」や「コーディング支援」が支配的なシェアを持っていることをデータで示しました。これは、「AI=仕事効率化ツール」という一面的な見方を覆すものです。
なぜこれが重要か
これは、AIモデルの「民主化」と「コモディティ化」が予想以上のスピードで進んでいる証拠だからです。
特定の巨大テック企業(OpenAIなど)のモデルだけに依存するのではなく、DeepSeekなど世界中のモデルを適材適所で使い分ける「マルチモデル戦略」が、開発者の間で当たり前になりつつあります。また、推理モデル(Reasoning Models)の台頭は、AIが「ツール」から「エージェント(代理人)」へと進化し始めたことを裏付けています。

未来の展開・戦略性
今後は、「安価なOSSモデル」と「最高性能の商用モデル」の使い分けがよりシビアになるでしょう。
レポートが示すように、コスト効率の良いOSSモデル(特に中国製)が日常業務やロールプレイを担い、絶対に失敗できないミッションクリティカルなタスクには高価な商用モデルを使う、という「二極化」が進みます。また、エージェント利用の増加に伴い、トークン消費量は指数関数的に増え続けるため、インフラプロバイダーの重要性がさらに増すでしょう。
どう考え、どう動くか
私たちは、「特定モデルへの依存」を減らし、OSSモデルを積極的に評価・採用する必要があります。
指針:
- OSSモデルの再評価:QwenやDeepSeekなどの最新OSSモデルを試し、商用モデルからの置き換えが可能か検証する。
- エージェント実装の検討:単発のチャットではなく、自律的に動く「Agentic Workflow」をプロダクトに組み込む。
- 初期ユーザーの優遇:「シンデレラ効果」を踏まえ、熱心な初期ユーザーからのフィードバックを重視し、彼らを逃さない施策を打つ。
- 今日やること:OpenRouterのランキングを確認し、現在トップシェアのOSSモデル(例:DeepSeek V3)をAPIで叩いてみる。
- 今週やること:自社のAI利用ログを分析し、「ロールプレイ」や「コーディング」など、どのカテゴリに近い使われ方をしているか把握する。

限界と未確定
- データの偏り:分析対象はあくまでOpenRouter経由のトラフィックであり、企業のオンプレミス環境や、ChatGPT等のWeb UI直接利用は含まれていません。
- 地政学的リスク:中国製モデルの利用急増は、将来的な規制やセキュリティ懸念(データ流出など)と隣り合わせです。
- 「推理」の定義:何をもって「推理(Reasoning)」とするかはモデルによって曖昧であり、そのシェアの実態には議論の余地があります。

用語ミニ解説
- Open-Weight (OSS) Models モデルのパラメータ(重み)が公開され、誰でもダウンロードして動かせるAI。MetaのLlamaなどが代表例。完全にすべてが公開されているわけではない(学習データなど)ため、Open SourceではなくOpen-Weightと呼ばれることが多い。
- Agentic Inference(自律的推論) AIが人間に言われたことだけを返すのではなく、自分で計画を立て、ツールを使い、複数のステップを経て目的を達成する振る舞いのこと。
出典(公開日:2025-12-08):https://openrouter.ai/state-of-ai





