1. これは何の話?

AI時代におけるソフトウェアエンジニアリングという職能の行方に関心を持つ開発者・技術者向けの考察記事です。Claude Opus 4.5のリリース直後、著者がXで「ソフトウェアエンジニアリングは終わりに近い」とツイートし、それが予期しない規模で拡散して議論を呼びました。

著者は自身の言葉選びの曖昧さを反省しつつ、本当に言いたかったことを改めて整理しています。Facebookで叩き込まれた「コーディング=ソフトウェアエンジニアリング」という文化背景と、1968年のNATOカンファレンスで「ソフトウェアエンジニアリング」という用語が誕生した歴史を交えて、今何が変わり、何が残るのかを論じています。

記事全体のビジュアルサマリー

2. 何がわかったか

著者は「コペルニカン・メソッド」という統計的手法を引用して、1969年にベルリンの壁を見学した物理学者J・リチャード・ゴットのエピソードを紹介しています。ゴットは壁が1993年より長く残る可能性を25%と見積もり、実際は1989年に崩壊しました。同じ手法で計算すると、1968年に誕生したソフトウェアエンジニアリングが現在まで存続する確率は2%未満だったとされます。

しかし著者は同時に、本来の意味でのソフトウェアエンジニアリング(システム設計・判断・何を作るかの決定)が今こそ始まるのかもしれないとも述べています。Claudeがコーディングの泥臭い部分を肩代わりし、人間は面白い問題に集中できる時代が来ているというわけです。

ソフトウェアエンジニアリングの歴史タイムライン

3. 他とどう違うのか

AIによるコード生成の議論でよく出る批判は「コンパイラは決定的だから信頼できるが、LLMは非決定的だから信頼できない」というものです。著者はこれを真っ向から反論します。

コンパイラが決定的でも、その出力を実行前に予測することは一般に不可能です。さらにKen Thompsonの1984年論文「Reflections on Trusting Trust」を引用し、どれだけソースコードを検証してもバイナリに埋め込まれたバックドアは検出できないという例を挙げています。結局、信頼は検証ではなく「使用実績と社会的なプロセス」で積み上がるものです。

「信頼」の構造(氷山モデル)

4. なぜこれが重要か

AIとの協働を成功させる鍵は技術力ではなく「Theory of Mind」(他者の意図を推測する能力)だとする研究が引用されています。つまり、優秀なエンジニアは常に良いコミュニケーターであり、協力者と対話できる人だったということです。今その「協力者」にClaudeが加わっただけです。

毎月新しいモデルがリリースされ、技術の半減期がどんどん短くなる時代では、特定テクニックより「適応し続けるメタスキル」が最も価値を持ちます。

5. 未来の展開・戦略性

著者は、モデルリリースから約1ヶ月後に「モデルが劣化した」と感じる現象について、実際は人間側がモデルのパターンを吸収し、自身の基準が上がっているからだと指摘します。

人間はAIと競争しているのではなく共進化している、という視点が提示されています。AIの進化が人間を引き上げ、人間の進化がAIへのフィードバックとなる。このループの中で、ソフトウェアエンジニアリングとは異なる新しい職能が生まれるだろうと締めくくっています。

AIとの協働で成功する鍵

6. どう考え、どう動くか

コーディング能力だけに依存するのではなく、「何を作るか」「どう判断するか」を磨くことが今後ますます重要になります。

指針:

  • AIとの対話がうまくいかない時、自分の指示の曖昧さを疑う習慣をつける。
  • 新しいモデルが出たら積極的に試し、自分の基準がどう変わるか観察する。
  • コード生成以外の価値(アーキテクチャ設計、要件定義、リスク判断)に時間を割く。

次の一歩:

  • 今日やること:Claude Opus 4.5またはGPT-5.2を使って、以前手動で書いたコードを再生成させ、品質差を確認する。
  • 今週やること:チームメンバーとAIツールの使い方を共有し、他者の使い方から学ぶ。

7. 限界と未確定

  • この記事は個人の考察であり、実証研究に基づくものではない。異なる見解を持つ専門家の意見も参照すべき。
  • Theory of Mindがプロンプト成功率を予測するという研究は引用されているが、サンプルサイズや適用範囲は原論文を確認する必要がある。
  • 「新しい職能」の具体像は描かれておらず、今後の技術動向を注視する必要がある。

8. 用語ミニ解説

  • 他者の意図や心理を推測する能力。(心の理論 / Theory of Mind)

9. 出典と日付

The Secret Art of Science(公開日:2026-01-06、最終確認日:2026-01-08):https://secretartofscience.com/the-end