1. これは何の話?
「まるで人間が喋っているようだ」と世界を驚かせたElevenLabsの音声AIが、さらなる進化を遂げました。
新バージョン「v3」の最大の特徴は、AIに対する「演技指導」ができるようになったことです。
これまでは、AIがどう読むかは運任せな部分がありましたが、v3ではテキストの中に [sad](悲しく)や [shout](叫ぶ)といったタグを書くことで、声のトーンや感情を直接コントロールできます。
さらに、これまでは1人ずつ生成して編集で繋ぎ合わせる必要があった「対話(会話)」も、一つのプロンプトで自動生成できるようになり、オーディオコンテンツ制作の敷居を一気に下げました。
2. 何がわかったか
v3の進化は「自然さ」から「表現力」へのシフトです。
- オーディオタグ:
[sigh](ため息)や[clears throat](咳払い)といった非言語的な音も生成でき、人間味のある演技が可能になりました。 - ダイアログモード: 異なる声質を持つ複数のキャラクターを割り当て、テンポの良い掛け合いや、相手の言葉を遮るようなリアルな会話の間(ま)を再現できます。
- 多言語対応: 対応言語が70以上に拡大し、世界人口の90%をカバーするようになりました。もちろん日本語のイントネーションも向上しています。
3. 他とどう違うのか
OpenAIのAdvanced Voice Modeなども感情表現は得意ですが、ElevenLabs v3は「テキストベースで細かく指示できる」点がクリエイター向けです。 「ここは笑いながら、でも最後は真剣に」といった複雑な演出意図を、試行回数を減らして確実に反映させることができます。 また、API経由での利用も強化されており、ゲームやアプリに動的なキャラクターボイスを組み込む際の柔軟性が高まっています。
4. なぜこれが重要か
これまでは声優に依頼するか、妥協して棒読みのTTS(Text-to-Speech)を使うかの二択だった場面に、「演技ができるAI」という第三の選択肢が生まれました。 インディーズのゲーム開発者や、個人でオーディオブックを作りたい作家にとって、コストとクオリティのバランスを劇的に変えるツールになります。 また、企業の研修動画やカスタマーサポートの自動音声も、より感情豊かで聞き取りやすいものに変わっていくでしょう。
5. 未来の展開・戦略性
ElevenLabsは、単なる音声合成エンジンではなく「オーディオ・ストーリーテリングのプラットフォーム」を目指しています。 今後は、効果音(SFX)生成機能とも統合され、テキストを入力するだけで、BGM・効果音・セリフが完備されたラジオドラマが完成する未来も近そうです。
6. どう考え、どう動くか
コンテンツ制作者は、v3の表現力を試し、新しいフォーマットの可能性を探るべきです。
指針:
- 過去に作った動画のナレーションをv3で作り直し、感情タグを使うことでどれくらい視聴維持率が変わるかテストする。
- ダイアログモードを使って、2人のAIによる「ニュース解説」や「漫才」のようなコンテンツを試作してみる。
- 自社アプリの通知音声を、単なる読み上げではなく、ユーザーの状況(成功、失敗など)に合わせた感情豊かな声に変更する。
次の一歩:
・今日やること:ElevenLabsのプレイグラウンドで、[whisper]タグを使って「内緒話」のような音声を生成してみる。
・今週やること:短い脚本を用意し、ダイアログモードで2人のキャラクターに演じさせてみる。
7. 限界と未確定
- タグの解釈: まだAlpha版ということもあり、タグの指示が無視されたり、意図しすぎた大げさな演技になったりすることもあります。
- 倫理的問題: 実在の人物の声で、本人が言っていない感情的な発言(怒りや悲しみ)を生成できてしまうため、ディープフェイク悪用への対策が急務です。
8. 用語ミニ解説
- TTS (Text-to-Speech): テキストを音声に変換する技術。
- オーディオタグ: テキストプロンプト内に埋め込む、音声のスタイルや効果音を指定するための特別な記述(例:
[happy])。
9. 出典と日付
[1] ElevenLabs Blog (2025-12-03): https://elevenlabs.io/blog/elevenlabs-v3-launch
